「48歳まで、包丁はリンゴを剥くための道具だと思っていた」
これが、私の料理スキルの現在地だった。28年という長い年月、私は自分の身体を顧みることなく、ニコチンとコンビニ飯で心身の隙間を埋め続けてきた。175cm、76kg。禁煙と引き換えに増えた体重計の数字を見つめ、私はついに、これまで避けてきた場所へと足を踏み入れた。
本屋のダイエットコーナー。キラキラした表紙が並ぶ中、少しの気恥ずかしさと、それ以上の切実さを抱えて私が手に取った一冊。それが、私の「再生」に向けた現場復帰へのマニュアルとなった。
この1ヶ月、台所で私が何を感じ、どう足掻いたのか。その不器用な記録をここに記す。
「人生初のダイエット本」をレジへ持っていく勇気
48歳の男が、ダイエット本を手にレジに並ぶ。自意識過剰かもしれないが、そこには妙な敗北感と、かすかな希望が混ざり合っていた。
「今さら、自分に何ができるのか?」 そんな声が頭をよぎる。しかし、28年の喫煙習慣を断ち切った今の私には、守るべき「新しい自分」がいる。これまでは「食べない」ことでしか体重を調整できなかった私が、人生で初めて「食べて痩せる」という未知の領域に挑むことに決めたのだ。
その本を開いた瞬間、目に飛び込んできたのは、煌びやかな料理写真ではなく、私のような初心者でも頷ける「論理的な仕組み」だった。
A型を救った「買い物リスト」という絶対的指示書
料理初心者が自炊を諦める最大の壁。それは「何を買えばいいか分からない」というスーパーでの迷いだ。 平日の夜、疲れ果てた頭でスーパーを彷徨えば、結局は手近な惣菜やカップ麺に手が伸びる。それがこれまでの私の日常だった。
だが、この本は私にとっての**「絶対的な指示書」**となった。 そこに書かれている買い物リストをそのままスマホにメモし、機械的にカゴに入れていく。
- 迷いが消える: 脳のエネルギーを「選択」に使わなくて済む。
- 冷蔵庫が整う: A型として、食材を無駄なく使い切る快感は、かつてタバコで得ていた偽りのリラックスよりも、ずっと深く心を整えてくれた。
「あ、自分でも準備できるんだ」 この小さな、あまりにも小さな成功体験が、28年の依存でボロボロになっていた私の自己肯定感を、少しずつ繋ぎ止めてくれた。
台所での格闘:理想と現実の狭間で
実際に包丁を握ってみると、現実は甘くなかった。 レシピには「サッと切って炒めるだけ」と書いてあっても、初心者の私には「サッと」ができない。タマネギの皮を剥くのにもたつき、野菜の大きさが不揃いになり、A型らしい「完璧主義」が顔を出して自分にイライラする。
しかし、そこで私を救ったのは、親記事でも触れた**「ラジオ体操」の精神**だった。 「完璧じゃなくていい。まずは、型通りに動くこと自体に価値がある」
火加減を間違えて少し焦がした鶏肉。不格好に切られた野菜。 それでも、ニコチンで麻痺していた私の舌が、肉の脂や野菜本来の甘みを「ご馳走」として認識し始めた瞬間、台所は「面倒な作業場」から「自分を作り直す聖域」へと変わっていった。
「味気ない」という偏見をぶち壊したガッツリ飯
正直に告白すれば、ダイエット本なんて「味の薄い鶏胸肉を、涙を堪えながら噛みしめる修行」が載っているものだと思っていた。 だが、この本が教えてくれたのは、むしろ「満足感」の重要性だった。
- 本音: 「え、こんなにしっかり食べていいの?」
- 実感: タンパク質を正しく摂ることで、あんなに強烈だった「深夜の空腹感」が、驚くほど影を潜めたのだ。
もちろん、2/12に76.4kgを記録したときは絶望した。食べているのに、体重が増えていく。 だが、本の内容を信じ、指示書通りに食事を整え直すことで、2/19にはその増加が止まった。これは、私の身体が「飢餓状態」から脱し、正しく栄養を代謝し始めたサインだと、今なら確信できる。
この一冊は、私にとっての「現場復帰」そのものだ
175cm/76.4kg。 数字だけを見れば、私の挑戦はまだ始まったばかりだ。目標の65kgまでは、あと11.4kg。気が遠くなるような距離に見えることもある。
けれど、私はもう、かつてのように自分を投げ出したりはしない。 人生で初めて買ったあのダイエット本を、これからも「現場復帰へのマニュアル」としてボロボロになるまで使い倒すつもりだ。
不器用な指先で切った野菜を、丁寧に、大切に味わう。 その一食一食が、28年の霧を晴らし、新しい私を構築していく。 もし、あなたが「自分を変えたいけれど、何から始めればいいか分からない」と立ち止まっているなら、まずは本屋のあのコーナーへ行ってみてほしい。
48歳の男が、恥ずかしさを堪えて手にした一冊が、人生を変えることもあるのだから。


